こんにちは! 小柏まき です。
今回は、小説『モルヒネ』の読書感想 です。
安達千夏さんという方が書かれた「長編恋愛小説」らしいです。
なんで“らしいです”なんて言葉を遣うかと言うと、私にとっては恋愛小説ではなかったからです。
この本との出会いは、特定の読みたい本がなくて書店をぶらぶらしていた時にたまたま目に入ったというものでした。平積みの文庫で、「絶対泣ける!」みたいなポップがついていて、帯には「〇〇万部突破」と書いてありました。手に取って表紙をめくってみると、「長編恋愛小説」と書いてあったわけです。
普段は、人気作家のミステリーや、芥川賞受賞作を読むので、たまには違ったものを読んでみたくなったのでした。
当時、長く付き合っていた彼氏と当然のように人生を共に歩んでいくと思っていた私は、裏表紙のあらすじを読みながら、惚れた腫れたの作り話を上から目線で読むのも面白いのかな、なんていうとんでもなく失礼な考えで購入しました。
感想
私にはこの小説は、無駄な部分が無く凄く心に残る大切な一冊。主な題材は死生観。
ピアニストにとってのピアノ演奏は、高尚な才能としてではなく、人生の大半を費やして心血を注いできた唯一のものとして描かれている。
アムステルダムの街は、お洒落な旅行先ではなく、安楽死先進国として描かれる。
主人公がずっと気にしている父の言葉を否定してみせるために余命少ない彼は突然現れ、そしてまた突然去ってゆく。それは残された少ない時間を割いてでも、主人公のこれからのための後押しをしたかったのだろう。
また主人公の婚約者があまりにも仕事熱心なことにはきっと理由があるはずで、それは読者にもわからない。それは本人と深く話し合わなければ理解できないことであろう。
主人公も婚約者に話していない経験や人生観がある。主人公と婚約者の今後はどうなるかわからないものの、お互いに深い話をしてほしいという期待感が残る。
現実は残酷で、実際は他者の気持ちは、はっきりと態度で表すか話し合わなければ全く理解できない。
一人称で語られるとナルシスティックに受け取られがちだが、主人公の複雑な心理が細かく描かれるために採られた、この小説には必要な書き方だと思う。
すべてが超人的にわかってしまってスッキリする視点が無いところが、現実味があって好きだ。
真紀もヒデも私ではないが、私は真紀でもヒデでもあるのかも知れない。
Amazonのレビューでは、なぜか酷評が目立ちます。
因みに私は読んでも泣くことはありませんでした。しかし、大好きな小説です。
これは、恋愛小説の形をとった“死生観の物語”です。